神経質症状は人によってさまざまであり、なかには一人で数種の症状を持つものもあり、またある時は対人恐怖症、ある時は不眠症とか同一人で症状が移り変わることもある。
症状の形は種々あるが根本は同じようなもので、治療の原因も共通している。
神経質症状は便せん上、大体次の三種に分類される。
1.普通神経質。
不眠症、常習頭痛、頭重感、頭内感覚異常、疲労亢進、能率減退、胃腸神経症、劣等感、小心取り越し苦労、性的障害(インポテンツ)、めまい、書痙、耳鳴、振戦、記憶不良、注意散乱、了解困難、読書困難、尿意頻数など
2.強迫観念。
対人恐怖症(赤面恐怖、視線恐怖、自己表情恐怖、被圧迫恐怖等)、疾病恐怖、不潔恐怖、不完全恐怖、卒倒恐怖、外出恐怖、吃音恐怖、罪悪恐怖、雑音恐怖、涜神恐怖、雑念恐怖、尖鋭恐怖など
3.発作性神経症。
心悸亢進発作(心臓神経症)、不安発作、呼吸停止恐怖発作等
以上のような症状の他にその人によってなおさまざまな症状があり得るわけであり、またこのうち普通人も内省すればある程度かかる症状のあることが自覚されるものである。
だから神経質傾向は世上無数にあるのであるから、特に病的として取り扱う必要はないわけである。
しかし症状のために当人の苦悩が激しくそのため日常生活に支障を来たす場合、その程度によって病的なものとして治療の対象になるわけである。
なお神経質症の人は他の精神病などと異なって、外観的には常人として変わったところもなく、抑制力もあって突飛な行動に出ることもないし、普通常識も具えていて、反社会的な態度や行動もみられない。
ただ症状の苦痛のために自宅では往々不機嫌になって、家人を困らせることもないではないが、他人に対してはほとんど全く正常人と異なるところはないのである。
なお精神病の場合は自分が病的だという自覚がなく、したがって病気を治そうと自ら助力することもないか、あってもきわめて表面的なものに過ぎないが、神経症の場合は反対に、普通のことも病的であると考えてそれに捉われるので、病識は強いのが一般である。
だから何とかしてこの症状、この苦悩から脱却しようという念願が強いので、この点精神病などと全く異なるところである。
神経質症状を起こしやすい人の性格
神経質症状がどんなたちの人に起こりやすいか私どもが種々テストなど使って調べてみると、大体内向的性格の人に多いことがわかる。
外向的な人にもあるにはあるが、内向に傾いている人に多いのである。
内向的な人は、自己反省に傾き、長所としては、思慮深く、細心で、反社会的なところも少なく、人から信用されるようなたちであるが、悪くこじれると劣等感、引っ込み思案、非社交的、臆病、ひねくれなどというようなふうになりやすい。
外向的な人は自己反省よりもむしろ外界に働きかける方が強く、進取、活発、積極的であるが、欠点としては無反省、軽率、卑俗、粗雑というふうになりやすい。
一般の人々は内向性外向性を両方とも持っているので、社会生活を営むことができるわけである。
外向性ばかりでは失敗が多く、内向性ばかりでは消極的になり過ぎる。
われわれの筋肉には伸ばす筋肉(伸筋)と曲げる筋肉(屈筋)があって、それが微妙に制し合って調和のある運動ができるわけである。
机上のペンを取るにしても伸筋だけ働いては指はペンより先に伸びてしまうし、屈筋だけでは、ペンのところまで伸びないという具合になる。
普通人には外向性も内向性もあり、同一人においても時と場合によって外向性が強く発揮され、あるいは内向性が主になったり常に変化しているわけである。
得意な時は外向的になり失意の時は内向になりやすいということもある。
生まれつき外向的に傾いた人もあり内向的に傾いた人もあるが、後天的な環境や修養によっても向性は相当変化し得るものである。
たとえば神経質症状に苦しんでいる時は平生より一層内向的になっているが、森田療法で症状が無くなると相当外向的になることはテスト、証明済みである。
さて内向的な人は、自己反省に傾き、自己の身心の弱点に捉われて種々の神経質症状を起こしやすい傾向がある。
例えば人前に出てあがったりすることは誰にでもあることであり、普通人は別に大して問題にしないのであるが、内向的な人は、これが自分の大きな弱点である、こんなふうでは思うように活動できないという具合に、そのことを重大視して、それに捉われるということがある。
しかし神経質症状を起こす人が必ずしも平生甚だしく内向的であるとは限らないので、いつもは積極的で活発な人でも、ある動機から急に捉われてその点で非常に内向的となるものがある。
神経質症状を起こす人は内向に傾く人が多いけれども、内向性ばかりであれば、甘んじて消極的生活を送るわけで、神経質特有の葛藤はないわけである。
神経質の人は一面向上欲が強く、意志も相当に持っており、そのためにいよいよ自己の内向性に反発をおぼえて、一層苦悩を増すのである。
だから神経質者の性格は単純な内向性格ではなく、内向性に反発する外向性を持つ複雑な性格者である。
なお神経質症状を起こす人は、感情鈍麻の人はなく感受性も強く、知能も普通以下の人は少ない。
要するに神経質者は本質的に性格的欠陥があるのでなく、後に述べる種々な理由によって、不調和の状態になっているのであるから、これを是正すれば立派な社会人として有為な人物たり得るものであり、この点われわれ神経質治療を行なうものが常に経験して愉快に思うところである。
※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著