睡眠は五、六時間でよい

重症の対人恐怖症(視線恐怖)克服日記第五十一日・・・午後、先生と一緒に松坂屋へ行く。

百貨店へ行くのは、数ヵ月振りのことである。

行ってみて、自分の様子のかわっているのに驚いた。

以前は、汗を流しながら、種々の品物を見つけるようにしても、目に入らなかったが、今日は、何でも見ることができた。

特に台所用品など、その値段を調べることもできた。

帰って後に、先生が寝ていられるのを見て、わざわざわれわれのために、遠い所へ連れて行って下さったことを感謝した。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)克服日記第五十二日・・・洗濯しているところへ、母が来た。

帰りに、電車通りまで見送る。

自分のよくなったことを非常に喜んでくれた。

午後、丸善へ本を買いに行く。

たびたび通った途であるが、わずか二ヵ月前に、首を挙げ得ないで、走るようにして歩いたことを思い出して、感慨無量であった。

ここでも、平気で本を買うことができた。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者は読書は、座ってするよりも、立って読んだほうが良い。
人が話していても、平気でできる。・・・

重症の対人恐怖症(視線恐怖)克服日記第五十四日・・・夕方、先生と買い物に行く。

近頃、外出は全く平気である。

一番嫌だった乗合自動車にも、人と向かい合って乗れる。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者は「活動中に、緊張があり、注意が集中される」ということを、以前『根治法』中の陸軍中尉の日記中に読んで、そんなことがあるかと思っていたが、今は実際以上にその感を深くした。・・・

重症の対人恐怖症(視線恐怖)克服日記第五十八日・・・起床四時半。

道路・下水掃除。朝いくら早く起きても、日中の仕事に、少しも差しさえることはない。

近頃の睡眠は五時間ないし五時間半である。

これまで、睡眠を量的に十分しなければ身体が疲れるとて、十二時間も眠ったことが、おかしくなる。

普通の駄眠時間を、いかに有効に使い得るか、と考えると愉快である。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者は午後、釘を買いに行く。

また、八百屋、牛肉店、魚屋へも行った。

読書は田口氏経済論。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者は今まで、外来患者の診察を聴く気がなかったが、近頃はお話がよくわかるので、今までに診察のお話を聴きのがしたのを残念に思う。・・・

重症の対人恐怖症(視線恐怖)日記第六十日(七月二十日)・・・読書は、仕事の合間合間に、忙しい時にした方がよくできる。

以前には、休息を最も必要なものと考えていたが、今は絶えず働きながら、しかも勉強ができると思う。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者は午後、友人が来て快談。

主に学校の様子を聞く。

友人を送って、本郷三丁目まで、絶えず話しながら行く。

これから思う存分勉強したいと思う。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)日記第六十一日・・・『神経質の本態』を読む。

以前にわからなかったことがよくわかる。『根治法』中の陸軍中尉の日記、対人恐怖症例を読み返してみる。

読み返すごとに、ピッタリとわかってくる。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者は六十日余りを経て、何ものをも得なかったともいえる。

自分はやはり、小さい弱いものの自分であった。

ただ弱くとも、苦しくとも、悲観はしない。

弱いままに、自分の本来性を発揮していければよい。

ただ、努力である。

※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著