気持ちは気持ち、仕事は仕事、別々である
対人恐怖症(重症の赤面恐怖)の克服日記第八十一日:この頃私は、仕事をするのが愉快で、うれしくてならない。
何の仕事にも工夫ができ、興味が湧いて、仕事そのものになりきるようになった。
今までは、一つ仕事をするのに、まず第一に頭をかすめてゆく考えは、「やり損なって、また、人に笑われはしないか、叱られはしないか」と思い、いつも手を出すことが億劫で、引っ込み思案ばかりしていたのである。
けれども今日では、この仕事はどうすればよいか、どうすれば早くできるか、おかずならば、これを美味しくこしらえようとか考えるようになり、どんな仕事でも、手を出して働いているうちに、本当に仕事の味というものがわかってきたような気がする。
こうして考えてみると、今までの私は、丸木橋を渡るのに、危なげな震える自分の足元ばかりに注意を集注していたのが、この頃、はじめて向こう岸を見つめるようになり、これからボツボツ、気持ちよく渡りつつあるのである。
対人恐怖症(重症の赤面恐怖)の克服第八十三日:今日は久し振りの天気で、心までがうららかになり、私が神経衰弱にかかって以来、はじめてこんな心地良い気持ちを味わった。
今日は、坊ちゃんのお料理、じゃがいも煮、キャベツ巻、卵の月見焼きなど、はじめてさせていただいた。
この頃私は、何でも手を出して、やってみたくてならない。
また仕事が細かに見えるようになり、掃除をするにも、今まで見えなかった細かいところの埃が見え出してきた。
この頃、私は気持ちと仕事とが、別々になっていることを知った。
今までは、少しでも不愉快なことがあればもう全く自分に捉われて、いくら仕事が迫っていても、これをする気にはならなかった。
今では、いくら嫌な気持ちがしても、気持ちは気持ちで別々に、仕事は仕事の方に、よく注意が集注するようになり、本当に愉快で、嬉しくてならない。
お昼頃、八百屋にお使いに行き、ついでにオカラも買ってきた。
また木村屋へ、坊ちゃんのパンを買いに行き、元気に満ちて帰ってくる。
※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著