両親が療法を信じない
ついに、昭和六年十二月、森田正馬の診察を受けに来た。
思ったよりもかしこそうな顔つきで、応対も割合にハキハキしていたから、入院を許すことにしたのである。
入院したところが、その後、成績が面白くない。
本人が国を発つ時、両親は私の治療を受けることに不賛成であったのを、本人から強いて歎願して、ようやく二十日間の承諾を得てきたとのことである。
二十日を過ぎても、なかなか治りそうな傾向が見えない。
父親からは、費用がないから早く帰るように、という端書がたびたび来る。
本人はどこまでも私を信頼しているのに、両親が私の療法を疑っている。
何とかしてこの両親に、本人の全治したところを見せつけてやりたい、というのが、森田正馬の行きがかりの意気地になってきた。
その後、ついに、私の女中ということにして、私の傍に置いて働かせることにした。
本人は、いつまでも自分の病を治したいという捉われから離れることができず、入院という気分が取れず、女中という境涯になりきることができなかったが、ようやく三カ月近くもたって後に、次第に、女中という心持ちになってくるとともに、全治に向かったのである。
※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著