勇気はいらない
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記七日:今日は一日、断食して寝るつもりだ。
いろいろ考えた。
病より自分の将来を考えるのが辛かった。
まず、まるで茫として、何が何やら見当がつかない。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『見当のつくものは、でたらめの易者ばかりであろう。』
二時に起きて、安倍川餅をこしらえて食った。
また、前田へ行って藁をうった。
××申す―一月から学校へ行かなければならなくなりましたが、私には学校へ行ける勇気がありましょうか。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『勇気はいらない。ただ行けばよい』
残像や彩塵は、相変わらず盛んです。
別に気にもなりませんが。
時には淋しくなることがあります。
いつまでも忘れずに視えるでしょうか。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『常に注意していれば、ついには忘れる。毎日勘定してはいけない。』
この頃は、父から金を貰ったり、養われたりしているのが、悪いこととして、心をとがめるのです。
親の恩に感激しながら、一面親の生活の方法に対して不満と不平を抱く二つの感情が打ちあって、こんな奇態な心が湧いたのです。
私は、物質では貧民でもよいが、頭では富豪になりたいのです。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『頭の―心の―貧しきものは幸なり。』
父は、それに反対の願いを持っています。
絵を買うのを見ましたが、父は絵よりも、落款を買う種類なのです。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『君は芸術品を鑑別する力がありますか。』
父は人間が生きていくのに、地位と財産と名誉とが最も大切である、と話して聞かせました。
私はそんなものは一番下らないものだ、といって叱られました。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『地位とは、身心の修養の高いもの、財産とは、衣食その他の必要、および欲望を満たし得る有形無形の材料と手段、名誉とは、良心にやましくないことで、人生に最も大切な三条件である』
私は、こんな気まずい心がありながら、父が恋しくてならないのです。
この矛盾が、私を、私の病に対するよりも苦しめます。
この矛盾はどうしたら消えるでしょうか。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『恋しいから怨むのです。他人ならば、怨みも何ともしない。
言葉に拘泥するから、矛盾に見えるのです。』
私は父には、苦しい頼り方をしています。
その他に、先生だけに頼っています。
私は別に、友も親類も、相談相手になってくれる人はないのです。
淋しくてならないのです。
対人恐怖症(赤面恐怖)の克服日記に対する森田正馬の回答『君は、神を信ずるとのことであったが、神を信ずるものは、孤独の淋しさと言うものがない。
人は神の子である。
神に近いものである。
人を頼らず、友を頼らず、親戚を頼らず、親に頼ることのできない人は、神に頼ることのできない人である。
したがってまた、自己を信じない人である。
君が友、親戚を信ずることができなければ、君が神を信じ、私を信ずるというのは偽りである。
もし神も私も、君の思う通りにならなかった時は、直ちにこれを排斥するであろう。
神も父も、己よりは偉大である―この説明は、ちょっと手短くはできない。』
※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著