社交恐怖と対人恐怖症

ピエール・ジャネという人の名前はご存知ない方も多いかもしれません。
オーストリアの医師で無意識の心理学と、それに基づく心理療法である精神分析を始めたジグムント・フロイトの影響を受けた精神分析の大家です。
ジャネは1903年に出版した有名な『強迫と精神衰弱』という本の中で、初めて社交状況の恐怖症という言葉を用いて今日の社会不安障害に悩む例を詳しく述べています。
これが社会不安障害のもともとの呼び名であった社交恐怖、社会恐怖という言葉の由来です。

医師の森田正馬はは1926年に出版した『神経衰弱及強迫観念の根治法』において、神経質を普通神経質、ヒポコンドリー、発作性神経症、強迫観念症の四つにわけていますが、ドイツのカスパーが報告した赤面恐怖が強迫観念症のひとつとして取り上げられています。
その後対人恐怖症は日本に特有の文化結合症候群とみなされてきましたが、韓国や中国でも日本人と同様の対人恐怖症が報告されています。
すなわち赤面恐怖、視線恐怖、正視恐怖、醜形恐怖、吃音恐怖など様々な対人恐怖症です。

その後日本では対人恐怖症について臨床的な研究が蓄積され、この分野に関しては世界で最も深く検討された国といえます。
日本では北海道大学の精神科の教授であった山下格が重症対人恐怖症100例を検討しています。
現在では山下の言う緊張型の対人恐怖症が社会不安障害と重なり、自己臭恐怖や自己視線恐怖などは、自分においてや視線が相手を不快にさせているという妄想的な確信が強いことから、確信型の対人恐怖症と呼ばれています。
今日では森田療法以来の絶対臥じょくを基本とする古典的な森田療法を行う施設は非常に数が少なくなりました。
外来通院での森田療法を行っている東京慈恵医科大学の分院精神科における検討によれば、対人恐怖症と診断された患者の7割以上が社会不安障害の診断の基準を満たすことが示されています。

※参考文献:社会不安障害 田島治著