”会食恐怖症の特徴”

会食恐怖と不安神経症の違いは深く、対人恐怖症の中核群との比較によっても、辺縁群の一つである会食恐怖像が明確になってくる。

第一に、H男さんの会食恐怖では、二次的に対人緊張が生じているとはいえ、その後の会食のたびにそれが起きている点では中核群に類似している。

しかし、食べ物がノドにつまるのではないか吐くのではないかという訴えは、対人緊張の現れとしては、やや焦点がぼやけている。
対人緊張で困るなら、人前であがって赤面し、声がふるえ、まともに話ができないといった、対人緊張そのものを直接的にあらわす訴えをするのが自然だろう。
ましてH男さんの恋人や家族との対人葛藤と、会食恐怖という症状がどう結びつくのかはわからない。

つまり、症状内容と、その原因たる対人的緊張や対人葛藤とのあいだに乖離がみられるのが会食恐怖の大きな特徴なのである。

ちなみにI子さんの症状には対人緊張や対人葛藤がほとんど認められない。
不安神経症ではこの乖離がよりいっそう著しいのだ。

第二に、人中というひろい不特定状況で生じる不安神経症に対し、会食恐怖の対象は、会食という場にかぎられている点があげられる。

また第三に、不安神経症ではそれを身体的疾患だと思い込んでいるのに対し、会食恐怖ではほとんどの対人恐怖症患者が精神的疾患であることを自覚できている。
この違いは、症状内容と対人葛藤との乖離の度合いに関連する。
不安神経症のほうがより逃避的なのも、同じ理由にもとづく。

会食恐怖症、ひいては対人恐怖症の辺縁群一般では中核群でみられるような対人恐怖症の症状変遷が認められないことがあげられる。
対人恐怖症の症状変遷という変化・発展は、問題を自覚し、それを抵抗と逃避の両面で克服しようとするために生じるものだからである。

※参考文献:対人恐怖 内沼幸雄著