<視線恐怖>の段階には、<表情恐怖>段階よりももっとふかみのある仮面が出現する。図式的に示すと、図4のようになる。
図4 視線恐怖の世界
この世界では「自」と「他」がともに仮面をかぶって対峙する姿をとる。
矢印は、視線を示したものである。
<表情恐怖>段階のところで説明しておいたように、対人恐怖症では、赤面克服の努力をこころみているうちに、外面と内面が分離し、「顔がこわばる」「泣いたような笑ったような顔になる」といった自分の表情にこだわる表情恐怖へと移行していく。
<表情恐怖>段階ではまだ中間状況だけで症状が発生することが多いが、症状発生状況の拡散傾向がそろそろ現れ始める。
それがさらに<視線恐怖>段階に進展すると、症状発生状況は広範囲に拡大していく。
この点は視線のみでなく、表情に関してもおなじである。
対人恐怖症患者は見知らぬ人達の前でも、また時に家族に対してもでも、自分の凝固した顔、つまりは仮面を意識するようになる。
<表情恐怖>段階と比べて<視線恐怖>段階で特徴的なのは、その仮面に不可解な威力を帯びてくる点である。
たとえばE子さんは、無理に正視しようとすると、自分の顔がこわばり、目つきもするどくなるとともに、そのつよい視線に、相手の目もみるみるこわばってくると述べている。
また大学入学試験の際、面接官の顔を懸命に見て話すようにしたが、面接官が顔をしかめ、あからさまに不快感をあらわしたという。
A男さんが先生の顔を見た時も同じである。
つまり相手の顔も仮面となるのだ。
※参考文献:対人恐怖 内沼幸雄著