私達日本人がもっとも陥りやすい「心の病」は何でしょう。
私たちの心の病は、もちろん個人の問題です。
しかし、この世で個人個人が、別々の国家に住んでいるわけではありません。
私たちは、日本という一つの確立された社会のなかで生きています。
当然、「心の病」にも、その社会の影が反映することになるでしょう。
これまでの多くの臨床例、データをみてみますと、日本人に一番多いのは、まず対人恐怖症です。
森田博士のとったデータによりますと、すべての神経質症者のうち、約30%が対人恐怖症だったという結果が出ています。
現在でも対人恐怖症は非常に多く、神経質症の代表といえます。
不安神経症の場合には、アメリカ人は性的葛藤を中心にしてこの症状が起こってきますが、日本人の場合は、現実生活での葛藤によって引き起こされるのです。
対人恐怖症が多いという事実に表われている日本人の社会的、文化的基盤そのものが、森田博士の方法をきわめて生みやすいものにしたこと、さらにいえば、日本人の多くが潜在的に森田博士のいう、自分の内に注意を向けすぎ、自分に高い欲求をもつ神経質的体質をもっているのです。
日本人の人間関係については、東大の中根千枝名誉教授の有名な研究があります。
それによれば、日本では縦構造の社会になっているということです。
「タテ社会」という言葉は、今やすっかり定着しましたので、ほとんどの方がご存知でしょう。
私達の社会は、地主と小作、上司と部下、親分と子分、先生と生徒、父と子、統率するものと受けるものなど、つねに社会のなかに明確なヒエラルキーが確立されていて、その中で人間関係が成立しています。
つまり、つねに自分がその社会のなかで、「かくあるべき地位」を決められていて、その地位にいる間は安心していられるのですが、少しでも離れると、人間関係がおかしくなってきます。
私達の人間関係構造はまさにこのようなものでしょう。
※参考文献:森田療法入門 長谷川和夫著