「心の病」を治す方法として、森田療法があると聞きました。
森田療法の特徴は、どんな点ですか。
森田療法とは、基本的には、かつて「神経衰弱症」と呼ばれ、治療困難な病気の一つと思われていた「心の病」を、病気ではなくて、いつだれにでも起きうる現象として、実生活の励行を通して治していこうという方法といえるでしょう。
たとえば人前で顔が赤くなるということで対人恐怖症に陥り、自宅に引きこもって会社にも学校にも行けなくなってしまった人がいるとしましょう。
森田療法では、こうした場合にまず、「人前で顔が赤くなる」のは、人間ならだれにでもある、ごく正常な現象であるとします。
それが日常生活を不可能なまでにするのは、その人が「赤くなってはいけない、いけない」と自分の心のなかに注意を向けすぎる性格のために、当たり前の現象を自分だけに起こる特別な、異常な現象だと思い込むことに原因があると考えるのです。
ですから、こうした「心の病」を治していくには、そうした自分の内の状態にばかりとらわれる気持ちをなくし、現実の目的に心が引かれるようにしなければなりません。
ここで、森田療法では「あるがまま」という境地を強調します。
つまり「人前で顔が赤くなるのではないか」「今夜も眠れないのではないか」「私はこの仕事に能力がないのではないか」などという、不安や恐れ、劣等感を、自然の状態としてあるがままに受け入れる心の持ち方を教え、日常生活上の目的を実行することで、自分の内部ばかりにとらわれることをなくしていこうというわけです。
そもそも森田療法をはじめてつくり上げたのは、故・森田正馬博士で、いまからおよそ60年前のことでした。
身体病や精神病として片付けられていた「心の病」を、科学的に、心理学的に研究し、先ほど述べたような基本精神の上に立って独自の方法をつくったのです。
博士は、「たとえば人生の丸木橋を渡るのに、いままで足元の危ないことばかりに心を奪われ、それを恐れないように、大胆になるようにと、むだな骨折りばかりしていたものを、私はその恐れはそのまま放置して、ただ丸木橋の対岸に憧れを起こさせるよう修養を積ませるのであります。
そうすると、何かの拍子に、ふと心が前に向かってしまい、足元のことをまったく忘れて、スラスラと楽に丸木橋を渡ってしまうようになるのであります」
と語っていますが、これはフロイトの精神分析法が、不安、欲求不満、恐れなどの原因を分析して、それを除いていこうとするのに比べると、まさに逆をいくものといえるでしょう。
対人恐怖症の人は自分が弱気で、どうしても人前で意見がいえない。
会社での会議がいやでいやで出社するのも嫌になる。
こういったとき、森田療法ではとにかくビクビクしながらでも会議に出ることから始めて、マイナスをプラスの心に転じようとするのです。
いうなれば森田療法は、きわめて現実的で、まず今を大切にする、実生活に密着した方法といえるでしょう。
この点からすれば、森田療法が対人恐怖症等の「心の病」に陥った多くの人を救ってきたのは、当然だといえるでしょう。
※参考文献:森田療法入門 長谷川和夫著