Sさんは今年、大学を卒業して就職しましたが、配属された課の上司が私を見るとき、いつも敵意をもっているように感じられてならないのです。

それは、同じ課内にいる同期に入社した2,3の者たちとは、いつもにこやかに笑顔で話をしているのに、私に対してはそっけない態度をとるのです。

私を呼ぶ声の調子もとげとげしく突き放すようです。

いや、それよりも上司の視線には、私を排除しようという感じが秘められているようなのです。


人はだれでも、「他人によく思われたい」という欲望をもっています。

世代も違えば育った環境も違うさまざまなタイプの人間が、一つの目的、つまり会社の利潤追求のために集まっている職場においては、それが顕著だといえましょう。

この「他人によく思われたい」という欲望こそが、職場での向上心やいい意味での競争心を生み、会社運営の原動力ともなっているのはいうまでもありません。

たとえば、上の人なら、「どんどん新しい価値観が生まれているこの時代に、若い世代とうまくコミュニケートするにはどうしたらよいか」、下の人なら「自分達が思っていることを、どんな表現方法でわかってもらったらよいのだろう」と考え、結果的に、組織全体の利潤を形成していくわけです。

しかし、この「他人によく思われたい」という欲望が強すぎてマイナスに作用すれば、「部下が何を考えているのかわからない」「上司にバカにされている」という悩みや劣等感になり、時には対人恐怖症になり、そのため人間関係に心をくだいているビジネスマンが少なくないのです。

世代や人間のタイプによって入手する情報も考え方も天と地ほど違うのですから、ある意味でこれは致し方ないことでしょう。

冒頭の例は、この点をよく認識しないで、対人恐怖症に陥ったケースです。

しかし実際には上司は、Sさんが何を考えているかがわからなかったのでしょう。

上司はいつも、分かりたいと思って、酒に誘おうか、食事をともにしようかとも考えていたかもしれません。

Sさんが少しでも「かわいらしいところ」を見せれば、声をかけようと思っていたのでしょう。

ところがSさんは、なぜか自分を避け、名前を呼ぶと逃げるようなそぶりを見せる、どうも自分を憎んでいるようだ・・・。

こう考えた上司は、思わず知らず、とげとげしい言葉を出してしまったのだと思われるのですが。

※参考文献:森田療法入門 長谷川和夫著