販売部配属の栗田さん(仮名)は、いつも同僚と一緒に社員食堂でランチをとります。

ある日、上司に関連会社社員との食事会へ誘われました。

もともと社交的な栗田さんは、普段あまり外部の人と接触がないこともあり、食事会をとても楽しみにしていました。

食事会は、普段は行くことができないような高級なレストランで行われました。

運ばれてくる美しい料理を前にしたとき、ふと「きれいに食べられるだろうか。私のマナーは合っているのだろうか」という思いがよぎりました。

今回参加したのは、栗田さんよりも年上の女性社員ばかり。

皆さん、高級レストランに慣れているようで、堂々としています。

すると、しだいに「私の食べ方を周りはどう見るだろう。

不快に思わないだろうか」という考えが頭から離れなくなり、食べ物がのどを通らなくなってしまいました。

この日はもう、それ以上料理を食べることができませんでした。

以来、人と一緒に食事をしようとすると、全く飲み込むことができなくなってしまったり、吐き気やめまいがするようになってしまい、ランチの誘いすら断らざるを得なくなってしまったのです。

人に食べているところを見られると緊張してしまって食べ物がのどを通らなくなる、吐き気やめまいがする、無理に食べようとすると体が震えるなど、さまざまな理由から、人と一緒に食事をすることができなくなり、食事に恐怖を感じるようになる症状です。

ただし、家で一人または家族と食べる食事は大丈夫という場合が多く、主に外食が対象になります。

会食恐怖には、おいしそうに食べることができず、同席者に申し訳ないと悩み、さらに食事ができなくなるタイプ、手が震えてしまい、周囲から奇異な目で見られてしまうと恐れるタイプ、自分が食べているときに出る音が周りを不快にさせていると気に病むタイプなどがあります。

会食恐怖は女性に多く、できるだけ食事の場面を避けようと、食事や旅行の誘いをことわったり、外出を控えたりと、人間関係や社会生活に支障が出る場合もあります。

※参考文献:あがり症のあなたは<社交不安障害>という病気。でも治せます! 渡部芳徳著