青木さん(仮名)は4年制大学を卒業後、中小企業に就職した勤続20年のサラリーマンです。

職場は和気あいあいとした雰囲気で、これまで人間関係に困ったこともなく、会議でも活発に発言する青木さんは、入社以来順調に昇進してきました。

しかし、いよいよ部長に昇進し、部長会で挨拶をしようとしたところ、突然頭が真っ白になり、予定していた挨拶がまったく思い出せなくなってしまいました。

慌てた青木さんですが、焦れば焦るほどしどろもどろになってしまい、何を言っているのか分からなくなっていきます。

緊張のため、冷や汗が止まらず、体も声も震えてしまいます。

この日はどうにか乗り切った青木さんですが、それ以来、人前で話をすることに恐怖を覚えるようになってしまいました。

対人恐怖症の症状の中でもっとも多いのが、このスピーチ恐怖です。

会社の会議での発表や朝礼の挨拶、披露宴のスピーチなど、人前で何かを話す場面で症状が表れます。

症状としては、ひどく緊張することで、言葉に詰まる、しどろもどろになる、声や体が震える、冷や汗が出るなどさまざまです。

症状の重症度は聞き手の数の多さに比例するものでもなく、また、予定になかった発言を急遽求められた場合は症状が表れなかったなど、複雑です。

100人以上が出席している結婚式で突然マイクを向けられた場合はスムーズにあいさつができたのに、30人程度が集まるPTAの集会で求められる毎回恒例の一言挨拶ができない、ということもあります。

また、スピーチ恐怖の青木さんのように出世してから発症した人はまだよいのですが、プレゼンができないために出世できない、というケースも見られます。

多くの会社では、積極的に発言し、生き生きとプレゼンするような社員が「デキる社員」として認識され、出世する傾向にあります。

しかし、スピーチ恐怖のある人は、どんなに頭が良く、仕事を確実にこなしていても、いざというときのプレゼンが下手というだけで、「デキない社員」とみなされることがあります。

結果、出世が遅れる、ということがあり得るのです。

※参考文献:あがり症のあなたは<社交不安障害>という病気。でも治せます! 渡部芳徳著