独りよがりの愚か者

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者の日記再入院・第一日(四月八日):・・・無断退院後、仕方なしに、はじめのうちは学校に行き、友人と気を紛らかした。

しかし、頭の底に、取り返しがつかない、ということが離れない。

学校で教師と対座し、自分の眼光鋭いため、退席を求められ、勉強もできないのかと絶望する。

それ以来、苦痛に堪えず、臥辱する日多し、五月に入り、兄に、先生のところへ頼みに行ってもらう。「不人情でズルイから駄目、根岸病院に入れよ」とのこと、根岸病院では治らないと絶望。

ニ十一日、仕方なしに、お詫びに来る。

今日、母に証人となってもらい、同道して、ようやく入院を許された。・・・

重症の対人恐怖症(視線恐怖)克服日記第二日目:・・・不眠治らず、悪夢に襲われ続ける。

仕事は、治療の手段であってはならない、ということが気になって、気がイライラする。

またにらむことが、ひどくなってきた。

午後は、風呂番をする。・・・

先生は、「小野さんは盆栽である」と言われた。

今までの十数年の教育は、全く間違っていた。

この不自然から、あらためて広い自然の大地へ根をおろし、生まれ変わらせなければならない、といわれた。

自分も過去を考えて、愚かな、ただ独りよがりの盆栽だったのである。

・・・また先生は、特に我の強い人はゆとりがない。

人に相談したり、人に頼んだりすることがない、といわれた。

このことは、僕に強く感銘した。・・・

重症の対人恐怖症(視線恐怖)患者はまた再入院ということが、意識にこびりついたように苦しかった。

糸の先に球をつけて、ブンブン振り回しているように、悪い悪いと、心の中で廻っている。

兄から、不人情でズボラであると、先生からいわれたと聞いて、頭に一大鉄槌を喰ったような気がした。

自分は今まで、他人から自分の批評を聞いたこともない、独りよがりの愚か者だった、ということがわかって、自分の醜さが恐ろしかった。

重症の対人恐怖症(視線恐怖)克服日記第三日:・・・先生のお部屋の掃除をする。

何だか目がくらむように、あわててしまう。

先生の傍に近づくと、不動金縛りのように、態度がぎこちなくなる。

このまま、辛抱していくよりほかに仕方がない。

・・・自分が、家にいた時は手を下すこともできなかった仕事を、教わりながらやっていけるから、不思議である。

食堂でも、昨日から平気で食べられるようになった。

伏目に慣れたせいか、伏目のままで人と話ができる。・・・

※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著