その人を治療する
読者は、この例によって、いかなるところに着眼されるであろう。
病は、何のために治すか。
目的がなければならぬ。
すなわち薬なり、催眠術なりを用いるにしても、たんにその容体を治すのみでなくその人を治さなければならない。
ここに人生観というものがなければならない。
この例についても、教育にも宗教にも、大きな人生問題にも、触れるところがある。
特にこの例において、読者の疑問とされるところは、この対人恐怖症(赤面恐怖)患者に対して、なにゆえに芸術の方面に発展させる方法を採らないか、ということであろうと思う。
もとよりこれは神経質という診断のもとに、私の意見に従うところであるが、私はもとより浅学で修養のないものである。
願わくば世の教育家、宗教家、その他人生問題に対して有識の方々は、幸にこのような実例について、抽象的でなく実際的に、私の蒙を啓き、示教の労をとられることを、希望する。
※参考文献:対人恐怖の治し方 森田正馬著