”症状と内面葛藤の乖離”
症状と葛藤との乖離に関して、会食恐怖と不安神経症を比較してみる。会食恐怖では、まだ、対人緊張・対人葛藤と、会食恐怖という症状内容の、乖離の程度は大きくなかった。
これに対して不安神経症では、症状それ自体に、対人葛藤を示唆する内容すら含まないのである。
同じことが、排尿困難恐怖と強迫神経症とのあいだにも認められる。
排尿困難恐怖のJ男さんは、排尿困難の症状ではじまり、それにともなって、対人緊張感を自覚するようになり、そうなるとともにますます排尿困難の症状がつよまっている。
症状と対人緊張との結びつきは顕在化してきている。
その点が、対人恐怖症の辺縁群に入れる所以となっているのである。
これに対して強迫神経症のK子さんの場合はどうか。
なるほどK子さんも対人的にスムーズにいっているわけではない。
しかしそれはあくまで強迫神経症の付随症状であって、主症状の強迫症状は対人的な場とは無関係に出現している。
また症状自体の内容には対人葛藤をさし示す片鱗すら認められない。
その意味で対人恐怖症状と対人関係との乖離は、表面的にみたかぎりでもあきらかといってよい。
なおまた、強迫神経症の典型例では、不潔は誰でも好まない、飛行機が落ちる心配は当たり前と、自分の怖れを合理化できるのに対して、排尿困難恐怖はなかなか合理化しえない点も、両者の一つの違いである。
※参考文献:対人恐怖 内沼幸雄著