”赤面が気になり仕事ができない”

B子、初診時二十一歳
小さい頃から人見知りの傾向が強かった。
それが段々と対人恐怖症となった。

高校の頃は、男性をつよく意識して赤面しやすいところがあったが、男性の前では大人っぽく振る舞うようにつとめた。

高校の頃はとくに病的とは考えていなかったが、会社に入った頃からひどく赤面を意識するようになった。
赤面恐怖のため、会社の食堂で食事ができなかった。

仕事中に人に見られていると、計算もできなかった。
電車の中でも赤面を怖れて座席に座れなかったこともある。

人に会うと、しらけるのを怖れて無理に意識しておしゃべりとなり、そのために疲れてしまう。

赤面恐怖の為、高卒後、半年から一年くらいの間隔で会社を三回変え、今は小さな商店に勤めている。
ひどく臆病だけれども負けず嫌いなところもあり、切羽詰まると、わりと大胆になる。

この症例は単純な赤面恐怖の例である。
ここで赤面恐怖を後の段階との関連でとらえる必要性を考えてみよう。
医学ではどのような疾患でも早期発見・早期治療の必要性がさけばれている。
赤面恐怖が後の段階に発展する可能性を考えれば、対人恐怖症でも早期発見・早期治療の意義が生じてくる。
この点はきわめて大切なことである。
若い人達が赤面を怖れるという統計的事実が厳然としてあるが、このような赤面恐怖予備群に対する予防効果も期待しうることになる。

またこの症例には、赤面恐怖の前段階である「人見知り」段階がはっきり認められている。
人見知りとはのちに述べるように、精神発達における羞恥の原初的な形態である。

したがって対人恐怖症の研究は、羞恥の文化を根底にもつ日本人の在り方を知るよすがともなりうるのだ。
このような見方は、対人恐怖症の症状変遷という視座に立つことによってはじめて可能になる。赤面恐怖が後の段階に発展する可能態としての病態であることは、すでにA男さんの例A男さんの克服事例に示されているといっていいが、ここではもう一つの具体例をあげておく。

※参考文献:対人恐怖 内沼幸雄著