●症状が移りかわっていく
”三つの理念型”
対人恐怖症の中核群は赤面恐怖、表情恐怖、視線恐怖の三つである。
第一章のU男さんは、「話しかけても誰も喜んで聞いてくれないような気がする」という対人関係の違和感・緊張感に悩んでおり、赤面恐怖は認められない。
けれども、多くの赤面恐怖症者が、このような対人的な違和感・緊張感を背景にして赤面し、その赤面を怖れることを考えると、U男さんの病理の基本問題は赤面恐怖のそれと同じだと思われる。
これに対してN子さんの悩みの中心は、顔や体がこわばって、なにかギクシャクしてしまう点にあり、表情恐怖の典型例である。
表情恐怖の患者の多くは人前で顔がこわばり、不自然な表情になって、人に嫌われるのではないかと恐れるが、表情ばかりでなく人と接する態度もギクシャクする人達も少なくない。
S子さんは対人恐怖症でも重症例といってよく、自分の視線のために他人に迷惑をかけていると思い込んでおり、視線恐怖の症例である。
文面からは判然としないが、このような変な自分を他人から見られていると思って委縮しているに違いない。
自分の加害的な視線恐怖と同時に、自分も他人の視線にさらされ嫌われているという、被害的な視線恐怖にも悩んでいるものと想像される。
だが、人生相談の限られた情報だけでは、精神病理構造の把握はこれ以上進まない。
精神科の治療は、患者と治療者の時間をかけた話し合いにもとづくことが不可欠である。そうして得られた自験例にもとづいて、いったい三つの理念型はそれぞれ異質な型なのか、それとも相互に関連し合っているのか、関連し合っているとすれば、どのような理由にもとづいているのかを検討してみることにしよう。
そうしてはじめて治療が可能となるのである。
※参考文献:対人恐怖 内沼幸雄著